HOME > TOPICS > 生命保険金に相続税や贈与税はかかる?知らないと損する税金の仕組みと対策
Aさんのケース:終身保険に加入した背景
Aさん(仮名、60代)は、自身の資産を将来息子さんにスムーズに継承させたいと考えていました。まとまった現金を直接贈与すると息子さんが使い過ぎてしまう心配や、将来の相続税負担が気になります。そこで専門家に相談し、贈与した資金で終身保険に加入する方法を選択しました。 具体的には、Aさん自身を被保険者(保険の対象となる人)とし、契約者兼死亡保険金受取人を息子さんにする契約形態です。こうすることで、Aさんから息子さんへの生前贈与と生命保険を組み合わせた相続対策が可能になるからです。
Aさんが生命保険を使ったのには、いくつか大きなメリットがあります。
生命保険を活用する際は、契約者(保険料を支払う人)・被保険者(保険の対象者)・受取人の組み合わせによって、将来かかる税金の種類が変わります。主な契約パターンと課税関係は、
相続税が課税されるパターン
保険料負担者(契約者)と被保険者が同一人物の場合です。例えば「契約者=父親(被保険者も父親)、受取人=子供」のケースでは、父親が亡くなり子供が受け取る死亡保険金は相続税の課税対象になります。この場合、先述の「500万円×法定相続人の数」の非課税枠が適用されるため、一定額まで相続税がかからずに済みます。
所得税(一時所得)が課税されるパターン
保険料負担者と受取人が同じ人物で、被保険者だけが別の人物である場合です。例えばAさんのケースのように「契約者=子供(受取人も子供)、被保険者=親」という形では、親が亡くなったときに子供が受け取る保険金は所得税(一時所得)の課税対象になります。一時所得の場合、受取保険金からそれまで支払った保険料総額と50万円の特別控除を差し引いた残額の1/2が課税対象となります。保険金額と払込保険料によりますが、増えた分の一部にのみ課税されるイメージです。
贈与税が課税されるパターン
保険料負担者・被保険者・受取人の三者全てが別人の場合です。例えば「契約者=母親、被保険者=父親、受取人=子供」のようなケースでは、父親の死亡により子供が受け取る保険金は、保険料を負担していた母親から子供への贈与とみなされ、贈与税の課税対象となります 。贈与税の場合、基礎控除110万円を超えた部分に高い税率が課税されるため、このパターンは税負担が最も大きくなりがちです。
Aさんの対策では、生前贈与で渡したお金を息子さんが保険料に充てる形を取っています。この「生前贈与」を確実に事実として残すことも重要なポイントです。税務上も贈与が正式に行われた証拠を残しておくことで、後々のトラブルや課税リスクを減らせます。
毎年の贈与については、必ず贈与契約書を交わしておきましょう。契約書には「贈与者(Aさん)」「受贈者(息子さん)」「贈与する金額と目的(例:○年○月分の保険料○円を贈与)」などを明記し、贈与日付と双方の署名捺印を入れます。贈与契約書を毎年作成しておけば、税務署から見ても各年ごとにしっかり贈与が行われたことの証拠になります。特にAさんのように複数年にわたり定期的に贈与する場合、毎年別個の契約として手続きを残すことで、「連年贈与」(一度にまとめて贈与したとみなされること)と見做されるリスクを防げます。
贈与は現金手渡しではなく銀行振込で行うのが望ましいです。Aさんも毎年、自分の口座から息子さん名義の口座へ保険料相当額を振り込み、その記録を残しました。このように銀行振込の記録があれば、お金の流れが明確に証明できます。加えて、保険料の引き落としも息子さん名義の口座から行うようにします。贈与されたお金が息子さんの口座に入り、その口座から保険会社へ保険料が支払われている流れが確認できれば、贈与が確実に行われ息子さんが契約者であることが裏付けられます。
毎年110万円以下の贈与であれば本来贈与税の申告は不要ですが、あえて少額の贈与税を申告しておく方法もあります。例えば毎年111万円を贈与し、基礎控除を1万円だけ超える形にすれば、贈与税1,000円を申告・納税することになります。わずかな税負担で済みますし、税務署に贈与を届け出る形になるため「正式に生前贈与を行った」証拠としてより確実です。ただしこの方法を取る場合、毎年忘れずに翌年の2月1日から3月15日までに贈与税の申告を行う必要があります(申告漏れにはペナルティがあります)。専門家と相談しながら、自身に合う方法で贈与の事実を残すようにしましょう。
A: Aさんが途中で亡くなった場合でも、契約形態上Aさんが被保険者ですので、その時点で保険契約は終了し、死亡保険金が息子さんに支払われます。息子さんが受け取る保険金は、上記のとおり所得税(一時所得)の課税対象となります。一時所得の計算では「受取保険金-払込保険料総額-50万円」の半分が課税されますが、例えば払い込んだ保険料総額と受取保険金の差額が50万円以下であれば所得税は課税されません。したがって、払い込んだ保険料が多いほど実質的な税負担は軽減される仕組みです。
一方、Aさんのご逝去により相続税の計算上は、生前3年以内(※2024年以降の贈与は7年以内)の贈与財産があれば相続財産に加算されるルールがあります。Aさんが亡くなった時点から遡って7年以内の贈与については、たとえ毎年110万円以下で贈与税がかかっていなくても、その贈与分が相続財産に含まれて相続税の課税対象となります。例えばAさんが5年間毎年100万円ずつ贈与した後に亡くなられた場合、その5年間(計500万円)の贈与額は相続財産に加えられて相続税の計算に組み込まれます。これは「生前贈与加算」と呼ばれる仕組みで、生前贈与による相続税圧縮効果が一定期間内の贈与については無効化されてしまうものです。
ただし、ご安心ください。上記の場合でも息子さんが受け取った保険金自体はAさんの遺産ではないため、保険金そのものが相続税の課税対象になることはありません(所得税の対象です)。相続税がかかるのはあくまでAさんが亡くなる前◯年以内に贈与した財産部分であり、生命保険金は別枠なのです。結果的に、息子さんは速やかに保険金を受け取れますし、その保険金から相続税(加算分)や所得税を支払ってもなお資金が手元に残ることになります。Aさんが贈与と保険を組み合わせた最大の目的は、このように「先に渡したお金で準備した保険金によって、税金を納める余力をも確保すること」にありました。生前贈与加算の期間(現在は死亡前7年)を超えてAさんがご存命であれば、その後の贈与分は相続税加算の対象とならず純粋に節税効果を発揮します。反対に早期に亡くなられた場合でも、保険金によって納税資金が確保できる点で息子さんの負担軽減に役立つでしょう。
契約者・受取人の権限と相続時の注意点
契約者に保険契約の大きな権限があるため、信頼できる相手を選ぶことが前提。特定の相続人(例:息子)が保険金を受け取る場合、他の相続人との間で不公平感や「特別受益」とみなされる懸念があるため、事前に家族と共有しておくことが望ましいです。
保険商品選びと専門家への相談のすすめ
終身保険や一時払い保険、低解約返戻金型など保険商品には様々なタイプがあり、目的と資金計画に合った選択が不可欠です。贈与税の観点からも、暦年贈与と比較して検討すべきなので、保険活用を含めた相続対策についてお悩みの方は、ぜひ当センターへご相談ください。経験豊富なスタッフが、ご家族の状況に合わせて最適なプランをご提案いたします。
大切な財産を有効に活用し、安心して次の世代にバトンタッチするために、早め早めの準備を心掛けましょう。専門家の知恵も借りながら、納得のいく生前贈与・相続対策を進めていただければと思います。